屋形船の安全対策・災害対応・社会貢献の取り組み

屋形船による社会貢献の試み

2020年04月07日 13時58分

屋形船を運航する船宿業界は、地域への恩返しの意味も含めてさまざまな社会貢献も行っています。飲食店でもあり、移動手段でもあるという屋形船の特質を活かし、災害時に被災者の避難や支援をおこなうための訓練を官庁と協同して行ったり、河川と海の水質保全に取り組んだり、といった活動です。
 
2.⑴災害時の避難支援、帰宅困難者支援
今後30年以内にマグニチュード7クラスの首都直下型地震が起きる確率は70%とされます。東京都は、首都直下型地震が発生した場合、公共交通機関の運行停止により都内に滞留する帰宅困難者が約329万人発生するという予想を発表しています。首都圏には、東京都下あるいは他県からの就業者、通学者も多く、交通の寸断による混乱は必至です。
 
屋形船は、厨房、ダイニングスペース、トイレを装備しており、飲料水も確保しており、燃料と発電機をそなえているため自立した行動が可能で、収容人数も1隻あたり十数人から100人以上にもなります。そしてこのような屋形船は、東京湾岸地域に数百隻存在しています。
この収容力、輸送力、食糧供給能力は、災害時の被災者支援のためにはまさにうってつけでしょう。災害時の帰宅困難者の移動だけでなく、関係する行政機(警察、消防など)の指揮人員の速やかな輸送、医療機関の人員、ボランティア団体人員の搬送、あるいは、けが人や急病人の川沿いの病院への搬送など、また、その居住性をいかし、一時的な避難所としての利用も可能です。
 
東京湾岸地域には屋形船東京都協同組合、東京湾遊漁船業協同組合、江戸屋形船組合などの業界組合があり、これらは警視庁、消防庁をはじめ、東京都の東京海上保安部、港湾局、運輸局などと協同して災害対応訓練を行っています。
また、災害被災者移送のシミュレーションの意味も兼ねて、東京マラソンの応援参加者を無料でゴールまで搬送する取り組みも、過去何度か行っています。
 
ただ、東海地方に大地震が起きて、津波が東京湾をおそったとして、屋形船が無事でいられるかどうかは問題です。東京湾は房総半島と三浦半島で外海からの入り口が狭くなっており、そのため津波の侵入が抑えられることはたしかです。しかし、東京都がまとめている震災時のハザードマップによると、隅田川沿いの江東区、墨田区、台東区、荒川区、江戸川区、葛飾区あたりで非常に危険度が高くなっています。この地域は海抜が低く、津波、川の氾濫が懸念され、さらに古い木造建築も多いため、火災や倒壊も起りやすいからです。屋形船の船宿は、まさにこの地域に展開しているのです。状況によっては、船や桟橋が被害を受け、災害支援が行えないことも懸念されます。
食糧の提供についても、仕入れ元が機能しているかどうかに依存する部分があります。築地であれ豊洲であれ、深刻な打撃を受けていたら屋形船で提供できる食糧は船宿の在庫の範囲内になります。
こうした懸念事項を解決していくには、官民あげての協力が必要でしょう。
 
2.⑵車椅子利用者の乗降安全支援
今の時点ではまだまだ限定的ですが、車椅子をご利用の方に対する屋形船乗船の安全支援も行われています。
責任を持った安全管理上、一部の屋形船、一部の対応桟橋、貸切での利用のみといった限定はありますが、以下のような対応を行います。
 
車椅子での利用が可能な桟橋では、すべり止めの段差があるため、スタッフが後ろ向きでゆっくりと安全に車椅子を引いて案内します。
屋形船を桟橋にぴったり接岸し、ロープでしっかり固定したうえで、専用スロープを置いて、スタッフが車椅子を押し上げます。
船内では車椅子ご利用の方が席に着くまでご案内し、お手洗いの利用時などの移動もサポートします。
 
船内の移動では一部、車椅子を降りてハンドレール(手すり)につかまって歩いていただくこともあります。しかしこうした際も、介助訓練を積んだスタッフがしっかり支えてサポートします。基本的に、引率している介助者のお客様にはお手伝いいただかなくてもだいじょうぶです。
 
2.⑶水質保全の取り組み
気持ちよく乗船していただくためにも、川と海の水がきれいであることは重要です。高度経済成長期に比べれば、東京湾の水質はずいぶんと良くなりました。日本テレビ系の某番組で、魚類学者がびっくり仰天する珍しい魚が続々と見つかるほどです。
 
こうした東京湾の水質を守るため、屋形船を運航する船宿業界は東京都と「エコマリン協定」という取り決めを結んでいます。
この協定は正式名称を「東京湾小型船舶等環境保全協定」といい、東京湾を仕事場とし、自らの海をより魅力的にしたいと願う屋形船船宿が、東京湾の水質保全などを目的として、東京都との間で締結する協定です。
エコマリン協定を結んでいる船宿は、以下のような水質保全の取り組みを行っています。
 
し尿の適切な処理
船内にし尿タンクを設け、水域内にたれ流さない。
環境保全のための自主的な取り組み
海岸、河川敷の清掃。環境学習活動の主催、協力、参加など。
 
「海を守る」という心意気も、江戸時代以来の伝統なのです。